国内株の配当金や投資信託の分配金は受け取り時に20%(復興特別所得税込みで20.315%)が源泉徴収されて入金されます。通常はこの源泉徴収によって課税関係は完了しており、確定申告を行う必要はありません。
ただし、この国内株の配当金や投資信託の分配金はあえて確定申告をして、「源泉分離課税」ではなく「申告分離課税」や「総合課税」とすることもできます。
源泉分離課税
→自動的に税金分が引かれる。他の所得とは別に計算される。
申告分離課税
→確定申告によって20%(20.315%)の税金を支払う。株の損失との損益通算が可能。
総合課税
→確定申告によって税金を支払う。所得ごとの計算式に応じて計算し、他の所得と合算して合計金額に対して税金を支払う。所得税は所得が大きくなるほど税率が高くなる超過累進税率を採用している。株の損失との損益通算不可。
配当金はそのまま放置でもいいのですが、あえて総合課税の対象とすることによって実は税メリットを享受することもできる人もいます。
配当金を確定申告して総合課税申告し、還付を受ける
まず、配当金は20%(所得税15%+住民税5%)の税金がかかります。復興特別所得税を含めると20.135%です。
一方で配当金を総合課税を選択すると税率は他の所得(給与所得など)と合算し以下の表に従って課税されます。
課税所得 | 所得税率 | 住民税率 | 合計 |
---|---|---|---|
195万円以下 | 5% (5.105%) |
10% | 15% |
195万円超、330万円以下 | 10% (10.21%) |
10% | 20% |
330万円超、695万円以下 | 20% (20.315%) |
10% | 30% |
695万円超、900万円以下 | 23% (23.46%) |
10% | 33% |
900万円超、1800万円以下 | 33% (33.66%) |
10% |
43% |
1800万円超 | 40% (40.8%) |
10% | 50% |
所得税率の()内は復興特別所得税を加味したもの。
最低の課税所得が195万円以下の場合、所得税率5%と住民税10%の合算は15%(復興特別所得税込みで15.105%)なので、単純比較しても所得税率が低い方は総合課税とする方が得になるわけです。
さらに、配当金の受け取時には「配当控除」というものが利用できます。この配当控除は課税所得が1000万円以下の方の場合は以下の通りです。
- 所得税:配当所得の10%(1000万円超は5%)
- 住民税:配当所得の2.8%(1000万円超は1.4%)
※課税所得が1000万円超の場合
これが結構大きいです。まず所得税率は5%~45%ですが、10%が控除されることを考えると所得330万円以下なら税率はゼロになります。一方で住民税は10%ですがここから2.8%が引かれますので7.2%となります。
このように課税所得水準ごとの配当金・分配金の税率を配当控除込みで計算していくと以下のようになります。
課税所得 | 所得税率 | 住民税率 | 合計 |
---|---|---|---|
195万円以下 | 0% | 7.2% | 7.2% |
195万円超、330万円以下 | 0% | 7.2% | 7.2% |
330万円超、695万円以下 | 10% (10.21%) |
7.2% | 17.41% |
695万円超、900万円以下 | 13% (13.273%) |
7.2% | 20.473% |
900万円超、1000万円以下 | 23% (23.483%) |
8.6% |
30.683% |
1000万円超、1800万円以下 | 28% (28.588%) |
8.6% |
37.188% |
1800万円超 | 35% (35.735%) |
8.6% | 44.335% |
所得税率の()内は復興特別所得税を加味したもの。
見ていただくとわかるように、所得が695万円以下だと本来の税率(20.315%)を下回るようになります。
さらに、平成29年の税制改正により配当金を申告する際、国税(所得税)と地方税(住民税)を異なる方式で申告できるようになりました。
総合課税の場合、税率は7.2%になりますが、申告分離課税(申告不要)だと税率は分離課税時の5%になり、総合課税+配当控除を利用するより税率が下がります。
- 総合課税
- 申告分離課税
- 申告不要(源泉徴収あり口座のみ)
なので、国税は総合課税、そして地方税は申告分離課税(または申告不要制度利用)とすることで実質的な税負担をさらに引き下げることができるわけです。
提出期限は所得税の確定申告の後で住民税の納税通知書が送られてくるまでの間になります。手続きは各市区町村ごとに定められております。個人市県民税の申告書の提出が必要なケースや上場株式等の所得に関する住民税申告不要等申出書などが必要なケースがあります。
そして申告分離課税または申告不要とした場合、住民税率は5%になるので配当金の対する税率は以下のようになります。
課税所得 | 所得税率 | 住民税率 | 合計 |
---|---|---|---|
195万円以下 | 0% | 5% | 5% |
195万円超、330万円以下 | 0% | 5% | 5% |
330万円超、695万円以下 | 10% (10.21%) |
5% | 15.21% |
695万円超、900万円以下 | 13% (13.273%) |
5% | 18.273% |
900万円超、1000万円以下 | 23% (23.483%) |
5% |
28.483% |
1000万円超、1800万円以下 | 28% (28.588%) |
5% |
33.588% |
1800万円超 | 35% (35.735%) |
5% | 40.735% |
所得税率の()内は復興特別所得税を加味したもの。
このように、配当金に対して支払う税金を大きく抑えることができます。住民税を申告分離課税で申告する場合は所得695万超~900万円以下の方も税率が低くなります。
最低税率の5%なら実質1/4に節税できるわけです。仮に20万円の配当金に対する税金はそのままだと4万円ちょいですが、これを1万円にまで節税可能です。
もちろん、合法です。
課税所得の計算方法
上記に書いてあるのは「課税所得」です。額面給与(年収)ではありません。給与を所得に換算するのは人によって異なるため簡単ではありませんが、メチャクチャざっくりと計算しますと
まず、課税所得330万円超の範囲ですが、おおよそですがサラリーマンの方で年収640万円くらいがボーダーだと思います。つづいて課税所得900万円を超えてくるのは年収で1300万円くらいかな……。
なお、iDeCoを利用している人は掛け金分を全額所得から引いてください。
と、いうわけで、高所得者のエリートを除けば多くの方はこの仕組みを利用して節税をすることができます。
配当金の確定申告(総合課税)で注意したい点
ということで、働いている人で高所得な方を除けばかなりメリットのある配当金の総合課税化ですが、いくつか注意点もありますのでご確認下さい。
配当控除が使えない配当金や分配金もある
配当金や分配金は全部配当控除できるわけじゃないです。配当控除というのは株式会社が配当を出すとき、会社は儲けに対して法人税などの税金を払っています。この税金を払ったあとに残ったお金を配当するのですが、その配当に対して今度は受け取ったときに税金をかけると「利益-法人税-所得税」という形で二重に税金がかかることになります。
この二重課税を調整するためのものとなっています。なので、二重課税の調整にあたらない分配金などは配当控除を使えません。
代表的なものは外国株の配当金やREIT(リート)の分配金などです。
総合課税とすることで株の損失との損益通算ができなくなる
株の損益と配当金(分配金)は損益通算ができます。たとえば、1年間で株の損失が10万円、配当金や分配金で10万円の受け取りがあった場合、譲渡損と配当所得を合算できるのでプラマイゼロで税金がかかりません。
一方で総合課税とすると株の譲渡損は「申告分離課税」となり配当は「総合課税」となることで損益通算ができなくなります。
総合課税として申告すると【所得】扱いになる
株の配当金を総合課税として申告するとその申告分は「所得」として扱われることになります。例えば、20万円の配当金の受け取りを申告すると20万円分の所得が増えることになります。
これで困ったことになる可能性がある人もいます。
代表的なのが誰かの税制上の「扶養」に入っている人ですね。主婦(夫)や不要範囲内で働いているパートの方、あるいは大学生なども対象となります。そのほか、子供さんの扶養に入っている両親などがいる場合もです。
また、一定以下の所得の方が受けられる公的扶助などを利用している人も、配当所得を申告して所得が増えることで不利益が生じる可能性もあります。
このほか、前年所得で当年の保険料が決まる国民健康保険にも影響を与えます。個人事業主の方など国保に加入している人はこの点も配慮する必要があります(サラリーマンの健康保険は所得は関係ないので影響なし)。
そのほかでいえば、児童手当の所得制限や高校無償化にかかる所得制限に影響する可能性(リスク)があります。ちなみに、児童手当や高校無償化にかかる所得税は「住民税の所得」で見ています。なので、前述の「申告不要制度」を利用すれば配当金を申告しても所得額に含まれません。
運用益の節税は再投資で複利効果アップ
このように、配当金という運用成果についての税金を節税するということは結果として、その余剰分を再投資することができるようになるということになります。
20%と最低5%という税率の差は極めて大きく、仮に年5%配当の場合、再投資を前提にすると10年後には運用資金は+48%と+59%という大きな差につながります。節税により長期的には大きな差を生み出すことになります。
確定申告が必要という面倒くささはありますが、ある程度の株式運用をしているなら検討するべき価値はあると思います。
さいごに注意点
最後に、この記事は私の体験内容等を記載していますが、税金というややセンシティブな内容について記載しています。税金については皆様お一人お一人の状況によって異なります。
法律改正や私の知識不足による解釈の誤りなどの可能性もありますので、最終的な判断は皆様で行うか、税理士などの専門家にご相談くださいませ。
税についての相談窓口は「こちら(国税庁相談窓口)」からどうぞ。